あまりの衝撃にトラウマになる視聴者続出。数々の波紋を呼んだBBC放送のハロウィン企画番組「ゴーストウォッチ」


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 1992年10月31日、ハロウィンの晩に放送されたBBCの番組『ゴーストウォッチ』は、2万件以上の電話、1件の誘発分娩、数千もの苦情の投書を受けた。放送から約3年後の1995年6月27日、イギリスの放送基準審議会は公聴会を開いた。

 審査の結果、その番組は意図的に”脅威感を煽る”よう仕向けられていたと判断された。つまり、1,100万人の人々を無分別に恐怖に陥れた行為にBBCが加担していたとみなされたのである。

 ゴーストウォッチとは一体どんな番組だったのだろう?

超常現象がテーマのドキュメンタリー風番組

 ゴーストウォッチはアーリー一家に起きているという超常現象がテーマだった。一家は”パイプ”という亡霊によって苛まれていた。番組にはBBCの司会者が登場し、まっとうなドキュメンタリー風の作りで、作り話であることを匂わせる手がかりはほとんどなかった。かなりの視聴者が邪悪な霊を目撃したかのような印象を受けていた。

 番組によって不安を覚える視聴者があまりにも続出した為、BBCには”信頼を重んじるべき報道番組が策略を仕掛けた”という非難が浴びせられた。医療系の専門誌には心的外傷後ストレス障害を発症した子供の事例が報告され、やがては死亡事件の責任まで問われるようになる。

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信憑性を高めるための様々な演出

 脚本家のスティーブン・ヴォルクは1988年、幽霊屋敷とされる家のツアーを目玉とする6回シリーズの超常現象の企画をBBCに売り込んだ。しかし、BBCはあまり乗り気ではなく、最後のエピソードのみを採用し、ハロウィンの晩にこの”擬似ドキュメンタリー”の放送を決めた。
 
 ヴォルクにとって、これは自身の考えを試すチャンスであった。ホラー映画の場合には、人々は怖がらせられることに同意して観る。だが、テレビはもっと身近なもので、内容を予測することは難しい。お笑い番組を期待してチャンネルを回した視聴者は大いに驚くことだろう。

 番組に信憑性を持たせるため、ヴォルクらはBBCの司会者サラ・グリーンとクレイグ・チャールズ(2人とも子供番組でおなじみ)をアーリー家に派遣し、スタジオの進行役にアナウンサーのマイケル・パーキンソンを採用した。

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 さらに俳優にアーリー家の家族を演じさせることにした。シングルマザーのパム役、娘のスザンナ役とキム役が登場し、カメラの前で物音や猫の鳴き声、割れた皿など、室内で起きた不可思議な出来事を報告するのだ。スザンナの顔に引っ掻き傷まで作り、家から離れることを拒むパイプと称される霊の仕業にするという仕掛けもあった。

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 司会者の1人であったサラ・グリーンの夫であり特派員でもあるマイク・スミスは、レディオタイムズでこの企画は失敗ではないかと思っていたと証言している。

 「放送の数日前に行われたBBCとの会議で、大騒ぎになると話しました。するとキャスト付きのフィクションドラマとして宣伝するから心配ないと言われました。でも、それでは不十分だと感じました」 

 1992年10月31日午後9時25分、ゴーストウォッチが放送された。番組はパーキンソンが視聴者からの電話を受け付け、超常現象について話し合うという構成だった(すべてやらせである)。

 番組が始まりタイトルが表示されると、そこにはヴォルクが脚本を書いたことを示す”by”という文字があったのだが、それはほんの数秒しか画面に映らなかった。おなじみのBBCのキャスターが登場することで、本物らしさが演出された。なかなか展開しないことも本当っぽかった。

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 番組の後半になって事態はようやく展開を見せる。電話をしてきた視聴者の1人が家で自殺があったことや、付近で切断された犬の一部が発見されたことを告げる。

 アーリー家の子供たちは徐々に動揺し始める。1時間もするとパーキンソンが奇妙な出来事が起こっているために、グリーンを現場に残して番組の延長を決めたと発表。スザンナが低い声で話す。壁の後ろからいるはずのない猫の鳴き声が聞こえてきたというのだ。

 そのグリーンは家の階段下にあった隙間に潜り込んだあと行方不明になってしまう。そして、超常現象の専門家という人物が、視聴者は知らずのうちに降霊に携わってしまい、パイプをつけあがらせていると解説した。番組の終わりには、パーキンソンが憑依されたかのような状態になっていた。

 少々大げさなフィナーレであったが、1,100万人の視聴者が幽霊の目撃を信じ、子供を怯えさせたことについて大いに怒っていた。

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苦情が殺到、フィクションであると告げるも時すでに遅し

 番組終了後、BBCには苦情の電話が殺到した。ある女性などはストレスから誘発分娩を起こしたという。また、夫が失禁してしまったという苦情もあった。数時間のうちにBBCは番組がフィクションであると報じた。しかし、時すでに遅しである。

 公開講演番組は、その評判を利用して視聴者をだましたとしてBBCを非難。超心理学者のスーザン・ブラックモアはこう話している。

 「視聴者を不当に扱っていました。ファンタジーと現実の縁で遊んだり、テレビの慣習を拡大解釈したりするのは楽しいでしょうが、番組の進め方としては正しくも楽しくもありません。少女の苦しみを目にするのは、それが本物であれ、嘘であれ、不快です。しばらく嫌悪感を覚えましたし……適切な警告を行わなかったのは無責任です」

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子供たちに強烈なトラウマを与えた結果・・・

 グリーンは子供番組でパイプによって誘拐も殺されもしてないことを表明。ヴォルクらも謝罪し、ウェルズへのオマージュであり、ここまでの騒ぎになるとは予想もしなかったと釈明した。

 18ヶ月後に発行された『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』誌に掲載されたレポートでは、ゴーストウォッチによる心的外傷性後ストレス障害が報告された。番組を観た10歳の少年がパニック発作や睡眠障害を発症したという。

 さらに錯乱状態となった少年が幽霊に遭遇したと悩むあまり、自殺を図ったという事件まで起きた。両親はゴーストウォッチがフィクションであることを適切に表示しなかったとして、放送基準審議会を批判している。

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 なお、この放送以降、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『パラノーマル・アクティビティ』のような、ホームビデオによる不鮮明な映像で恐怖を煽る手法を採用する作品が登場する。

 だが、こうした作品によって乗り物酔い以上の被害が出ることは滅多にない。BBCと手を組んだゴーストウォッチは2度と作られないであろうが、比類なきホラー作品を生み出したという点で後世に名を残すこととなった。

 尚、現在映像の方はVIMEOなどで公開されている。

via:The BBC Halloween Hoax That Traumatized Viewers/ translated hiroching / edited by parumo
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